第18回「大学と科学」21世紀を拓く水素の世界 新材料とクリーンエネルギー
はじめに
20 世紀は生産活動を生活拠点とする「経済の世紀」でしたが、これから私たちの目指す21 世紀は「環境重視の世紀」です。このために化石燃料を太陽、地熱、風力、海洋、水素などのクリーンな再生可能なエネルギーで代替していくことが重要です。特に水素は、ほとんど無限に存在すると考えられている水が原料であり、クリーンな究極のエネルギー源として期待されています。これまで、材料科学における水素は、鉄鋼の水素脆性に代表されるように、害のある厄介者の元素としての位置づけでした。
これからの頻繁に水素を利用する社会に向けて、水素の機能を理解する必要があり、特に、どんなよい効果をもたらすかを調べ、将来おおいに活用することが重要です。ここでは、私ども日本の研究者が、いかに材料における水素の有効な機能を開拓してきたかという点について、基礎から応用まで紹介します。

水素の基礎的な性質

水素は原子番号1、原子量1.00797 で、地球上では9 番目に多く存在します。「水素(Hydrogen)」という名称は、水の素に由来して1787 年にラボアジェが命名しました。「hydro」はギリシャ語の「hydro(水)」を、「Hydra(ヒュドラ)」はギリシャ神話で水中にすんでいた巨大な水蛇を指しています。水素の重さは空気の1 / 14 で、もっとも軽い気体です。また、熱伝導は空気の約7 倍、比熱は空気の約14 倍です。比熱は1g の物質を1 ℃高めるのに必要な熱量を表していますが、比熱が大きく熱伝導度が大きいことから熱運ぶものとして有利で、冷暖房用媒体としての応用が考えられます。水素ガスの拡散速度が大きいのも特徴のひとつです。金属中での水素原子でも同じです。そして、水素は普通、気体ですが、− 253 ℃で液体に、−269 ℃で固体になります。

水素の安全性

水素の爆発範囲は広く危険で、空気と4 〜75 %(体積)混ぜ合わせると爆発します。また、発火エネルギーが小さいため、着火しやすく、火炎速度が速いため、一度火がつくと早い速度で広がります。その拡散速度はメタンの3 倍です。しかし、水素は比重が空気の1 / 14 と軽いため、窓を開放したり、野外などのオープンスペースでは、安全です。なみに、水素、メタン、ガソリンの安全性を比較すると表1 のようになります。