第19回「大学と科学」アルツハイマー病:治療の可能性を探る
痴呆の出現率

 東京都による痴呆性老人の調査が1981年、88年、96年とありました。その結果はどの年度もそれほどかわりがありません。痴呆老人は65歳以上の老人人口の約4%を占めます(図1)。この数字は、どこの先進諸国においても同様です(4〜7%)。痴呆患者さんの出現率は、65歳以上75歳くらいまでは、100人につき数人ときわめて低いのですが、80歳以降では指数関数的に増大します。たとえば、80歳では100人に9人の割合ですが、85歳以上では100人に21人の割合になります。85歳というと、現在ではそれほど高齢者ではありません。私のところにくる喪中の通知では、私の関係にもよるでしょうが90歳以上の方が多くなっています。
 この90歳代になると、100人に40人が痴呆で、さらに100歳代の老人になると100人に90人が痴呆です(図2)。このように、痴呆患者さんは80歳以降に急増します。現在の理解では、80歳以降に指数関数的に増大する痴呆の大多数はアルツハイマー病によるものと考えられています。
 以上の事実から、アルツハイマー病はきわめて現代的な疾患であることがわかります。平均寿命が著しく短かった戦前にはアルツハイマー病は社会問題になりようがありませんし、また現在でもこのような状態にあるアフリカの一部諸国でも問題になっていません。逆をいうと、われわれは寿命の延長とひきかえにアルツハイマー病を背負ったともいえます。
 このような加齢によるアルツハイマー病の著しい増加は、個体の寿命が神経細胞の寿命に近づいたから生じたと考えることができます。とすると、治療薬の開発は、不老不死のニュアンスからして簡単ではないと予想されましたが、近年めざましい進歩がみられます。