子どもの脳から大人の脳へ−2005世界脳週間の講演より−
 世界脳週間の活動は世界的な規模で行われているものです。一九九二年に米国で始まり、九七年からは各国で、日本では二○○○年から始まりました。現在はアフリカからの参加もあります。この活動は、日本においてはNPO脳の世紀推進会議がサポートしています。

脳科学は総合的・学際的

 さて、みなさんのなかで文系の人はどのくらいいますか。では、脳研究は理系でしょうか、文系でしょうか。また、脳の研究は医学部だけで行われているのでしょうか。
 脳研究は学際的な研究領域です(表1)。学際的とは、脳の活動についていろいろなレベルで研究ができることを意味しています。まず、「脳を知る」という領域では、化学物質の分子のレベル、一個一個の細胞のレベル、細胞が集まってできた器官・組織といったレベルで調べることができます。それから、神経系の形態をみる、機能をみる、回路をみるといった観点もあります。「脳を守る」という点については、脳や神経の病気を扱いますので、かなり医学部的な分野になります。
 また、「脳を創る」という領域には、たとえば脳型コンピュータの開発、ブレイン―マシン・インターフェイスという脳と機械をつなげるもの、ヒト型ロボットを開発するといった研究が含まれます。
 「脳を育む」という領域には、脳の発達や記憶・学習、言語の獲得といった研究が含まれます。心理学の分野も含まれますし、教育学も関係します。
文系と理系という分け方にとらわれるべきではないということを、まず知っておいてもらいたいと思います。脳科学は、このような多様な領域の研究者がそれぞれ勉強しあって発展するものです。「自分は文系だからこれしかやらない」、「自分は理系だからこっちのほうがいい」とは考えないほうがよいと思います。

脳を構成する神経細胞

 では次の質問です。脳のなかにはたくさんの細胞がありますが、いくつくらいあると思いますか。
 ヒトの身体全体で細胞が六十兆個あるといわれています。脳のなかのニューロンという神経の中心になる細胞が百?千億個は存在するといわれています。それだけでなく、ニューロンを支えるグリア細胞が、ニューロンの約十倍も存在しています。あわせると数千億個の細胞がみなさんの頭につまっているわけです。
 みなさんのなかに実際に脳をみたことがある人はいないと思いますが、脳には皺があり、クルミの殻のようなイメージです。この脳をとりだしたものを上からみてみます(図1A)。左側が大脳の左半球、右側が右半球です。脳を真半分で切った断面は、図1Bのようになります。
 現在、脳についていろいろなことがわかるようになってきました。私たちの精神活動が、どこで、どのように流れているのか、大脳のどんなところに役割があるのかについても、これまでの多くの研究でずいぶんと明らかになりつつあります。昔は、電気的手法によって大脳のどのような領域が、どんなはたらきをするのかについて研究されていましたが(図2をみてください)、最近では、PET(ポジトロン断層法)やfMRI(機能的磁気共鳴画像法)といった画像装置で、脳を傷つけることなく、脳が活動している様子を調べることができるようになっています。脳が活動するとたくさんの酸素を要求するため、局所の血流が多くなることをもとにして、どんな部分がはたらいているかを知ることができるのです。