反応すれば形が変わるナノの世界〜細胞から結晶まで〜
 本日は私たちが3年間にわたって行ってきました研究の成果をおおいに楽しんでいただければありがたいと思います。私たちの研究成果はまさに世界の最先端をいくものだと自負しておりますが、けっして難しくて退屈なものではありません。ドキドキハラハラしながら期待をこめて打ち込んできた仕事の成果です。最先端といってもその成果がすぐに役に立つわけではありませんし、その次の最先端の成果をだすためにはさらに長い時間がかかります。ですから、サイエンスとテクノロジーのさらなる発展のためには若い人、次世代に継がなくてはなりません。そのようなわけで、今回のシンポジウムでは、講演のほかに、高校生も壇上にでていただきパネルディスカッションを行い、最先端研究の内容とそれを担う研究者の実像に肉薄したいと思います。さらにサイエンスカフェでは、携帯電話やパソコンになくてはならない最新の電池や、私たちの環境を左右する自動車の浄化触媒をとりあげ、皆さんと意見を交わし、ご質問に答えたいと企画しております。
 科学技術は資源のない日本の将来を、私たちの国を支えるものです。それどころか日本のみならず世界中で、科学技術の発展に基づくイノベーションこそが、私たちの豊かな、そして人間的な生活を可能とする糧であるといわれています。そのため政府も国会も、産業界も科学技術の研究開発を支援しており、私たちも文部科学省から科学研究費補助金をいただき研究を行っています。その科学研究費補助金の一つが特定領域研究と呼ばれているものです。優れた研究分野を伸ばし、わが国に定着させるために、文系理系あわせて毎年10件程度が選ばれ推進されています。私たちの特定領域研究「極微構造反応」は平成16(2004)年に認められ、以来3年間、全国の大学や研究所などの86研究室を結集し、それらの英知、技術、ノウハウを統合して、新しいサイエンスを目指す研究を展開してきました。本日の公開シンポジウムはその成果を皆さまに問うものです。
 あらゆる物質、デバイスから生命までを原子、分子レベルで、精密に測定、解析する研究をナノサイエンスといい、それに基づいて原子、分子レベルで制御しながら、新しいものづくりを図る技術はナノテクノロジーと呼ばれています。わが国におけるナノサイエンス、ナノテクノロジーの研究水準は世界的にみてきわめて高く、さまざまなナノ研究が行われています。私たちの特定領域研究では、身の回りにあるリアルな反応をこのナノの視点で調べることを目的として推進してきました。とりあげた系は、生きた細胞、固体の濡れた界面、触媒作用を示す表面、有機物の結晶です。まったく異なるようにみえるこれらの系の反応も、ナノの視点で解析すれば共通の言葉で理解することができます。分子系ナノダイナミクスとしてまとめている私たちの成果について、ご意見をご教示いただければ幸いです。

領域代表挨拶
濱野生命科学研究財団・主席研究員
大阪大学名誉教授
増原 宏