文化財の保存と修復 14−災害から文化財をまもる
開会挨拶
文化財保存修復学会理事長 三輪 嘉六

 お早ようございます。朝早くからご参集いただきありがとうございます。
今年は東日本大震災での悲しい思いを、みんなが共通の理念として持ちながら年末を迎えます。こうした災害の問題と、災害から文化財をどうまもっていくかという課題は、私ども文化財保存修復学会では1995年1月の阪神・淡路大震災以来考えてきたテーマのひとつです。
 本シンポジウムの開催は、当学会が文部科学省科学研究費補助金研究成果公開促進費「研究成果公開発表(B)」を得て開催する運びとなります。これまですでに13回、それぞれ分野・テーマ・問題設定は違いますが、いくつかの方向性を持って対応してきました。そのなかで、東日本大震災はあまりにもショックでした。また、文化財もたくさん被災しましたが、文化財をまもり伝えていくことは、どこまでも究め続けていくべき大事なテーマです。そのため、このようなシンポジウムを企画したことをご理解いただき、ご支援いただきたいと思っております。
 本日は、私ども学会員による発表があります。その内容は、ここで発表したからといって究められた性格のものではありません。追究しなければならないいくつかの課題が多くあります。少なくとも私どもは各種の災害の経験を、これまでに積み重ねながら、災害から文化財をまもることを学ぼうとしています。災害から文化財をまもることについては、阪神・淡路大震災より以前は、それほど深刻に考えられてはきませんでした。ありていにいえば、関東大震災のときどうだったか。その後もいくつかの災害が発生し、文化財も当然被災しております。しかし、それぞれの時点で、文化財を災害からまもるという視点での具体的なまとめ方はほとんど行われてきませんでした。まさに1995年の阪神・淡路大震災で目が覚め、以後、こうした問題を私ども本学会としても取り組んできております。
 本学会は2つの大きな方向を持っております。ひとつは、文化財の保存について学問的に究めていくことです。当然それは、伝統的な保存の在り方と、保存科学的な保存の在り方の両方を併せ持っています。もう一つは、つい見失われがちですが、文化財を活用するという面でも保存の問題をしっかり考えていくということです。それらの問題に対応できる学会として、1,000名以上の会員で構成されております。すなわち、1,000名以上の会員の力を結集しながら、災害に対する文化財保存、災害時における文化財の保存の在り方を、これからも究め続けていきたいという思いで、本シンポジウムを企画しました。このことをご理解いただいて、今日一日すごしていただけたら幸いと思います。よろしくお願いいたします。